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東京地方裁判所 昭和58年(行ク)58号 決定

東京都葛飾区鎌倉四丁目三三番五号

申立人

泉谷キミ

右代理人弁護士

小川芙美子

川名照美

平野大

森和雄

東京都葛飾区立石六丁目一番三号

相手方

葛飾税務署長

山本作市

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

相手方

国税不服審判所長

林信一

右両名代理人弁護士

和田衛

右両名指定代理人

琵琶坂義勝

右葛飾税務署長指定代理人

榊原万佐夫

前崎善朗

山本高志

右国税不服審判所長指定代理人

軽部勝治

右当事者間の各文書提出命令申立事件(本案・当庁昭和五七年(行ウ)第七四号所得税更正決定処分等取消請求事件)につき、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申立てをいずれも却下する。

理由

一  本件申立ての要旨

申立人は、相手方葛飾税務署長(以下「相手方税務署長」という。)の所持する左記〈1〉〈3〉の文書(以下「本件文書〈1〉〈3〉」という。)及び相手方国税不服審判所長(以下「相手方審判所長」という。)の所持する左記〈2〉の文書(以下「本件文書〈2〉」という。)につき、本件文書〈1〉〈2〉については民事訴訟法(以下「法」という。)三一二号、三号後段に基づき、本件文書〈3〉については同条一号、二号及び三号前段後段に基づき、提出命令を求める。

〈1〉  相手方税務署長が本件に関し、酒場業者に対し求めた照会に対し、昭和五七年九月ないし一〇月に作成し回収された酒場業者全員(乙第二号証の一ないし三の対象者記号AないしIを含む。)の各照会回答書。

〈2〉  相手方審判所長が本件に関し、日鶏食産株式会社に対して行った申立人の材料仕入状況に関する照会の回答書原資料。

〈3〉  相手方税務署長が本件に関し、原告の酒類等仕入につき、仕入先である合資会社カクヤス本店(以下「カクヤス」という。)を調査した際、同社が右調査に応じて提出した文書一切。

二  相手方らの意見の要旨

本件申立ては、(一)「文書ノ趣旨」の記載がなく、文書の特定がされていないから法三一三条一号、二号に違反する。(二)相手方らは本件文書〈1〉、〈2〉を「引用」していないから法三一二条一号に当たらない。(三)本件文書〈1〉は相手方税務署長が、同〈2〉は相手方審判所長が、それぞれ内部資料として専ら自己使用のために収集した内部的文書であるから法三一二条三号後段に当たらない。(四)本件文書〈1〉については文書提出の必要性がない。(五)本件文書〈1〉、〈2〉を提出することは公務員の守秘義務に違背し、税務行政の執行に重大な支障を来たし国家の利益又は公共の福祉に重大損失ないし不利益を及ぼす結果となるから相手方らは右各文書の提出義務を負わない。(六)カクヤスから相手方税務署長に対し本件文書〈3〉が提出されたことはなく、相手方税務署長においてこれを所持していない。よって本件申立はすべて却下されるべきである。

三  当裁判所の判断

1  本件文書〈1〉については、相手方税務署長が陳述した準備書面中に右文書の存在と内容が個別的に明らかにされていないから法三一二条一号には当たらない。また、右文書は相手方税務署長が申立人との訴訟に対応するため内部的な調査資料として収集したものであり、専ら所持者の自己使用のため収集した内部的文書であることが明らかであるから、法三一二条三号後段にも当たらない。

のみならず、相手方税務署長は、法二七二条、二八一条一項一号の類推適用により、職務上の秘密に属する文書については文書提出義務を負わないものと解すべきところ、提出を求める右各文書は、乙第一号証添付の書式によれば、回答する業者名が記載されており、これを提出することにより当該業者の取引先酒類小売業者からの仕入金額が明らかになり、さらに乙第二号証の一ないし三と併せると当該業者の総収入金額、売上原価、一般経費等が明らかになることが認められ、これらの事項は所得税法二四三条の「所得税に関する調査に関する・・・事務に関して知ることのできた秘密」或いは国家公務員法一〇〇条一項の「職務上知ることのできた秘密」に該当することが明らかであり、これらの事項を明らかにするときは、今後の調査・資料の収集が困難になるなど税務行政の執行に重大な支障を来たし、国家ないし公共の利益に重大な不利益を及ぼす恐れがあるというべきであるから、相手方税務署長は前記文書につき提出義務を負わないものと解すべきである。

なお相手方税務署長が右回答書を訴訟用の資料として収集し、回答者が右資料として提出したからといって秘密保持の利益を放棄したものと解するのは相当でない。

2  本件文書〈2〉に係る申立てについては本件記録を精査しても、相手方審判所長がこれらの文書を「引用」したとは認められないから、法三一二条一号の文書に当たらない。

また、本件文書〈2〉は、相手方審判所長が申立人と同人との間の法律関係につき作成したものではなく、申立人の審査請求の当否を判断するための内部的な調査資料として収集したものであり、専ら所持者の自己使用のため収集した内部的文書であることが明らかであるから、法三一二条三号後段にも当たらない。

3  本件文書〈3〉のうち、カケヤスが相手方税務署長に対して提出した入金伝票の写については同相手方において乙第三号証の一ないし三二として提出済みであるから本件申立ては右文書に関する限り必要性を欠く。本件文書〈3〉のうち、その余の文書については、相手方税務署長が所持していることを認めるに足りる証拠はない。

4  よって本件申立てをすべて却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 時岡泰 裁判官 満田明彦 裁判官 大鷹一郎)

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